彼のとなり、彼女のとなり
NO.10 お互いの過去
「俺の親父、趣味でカメラやってるんだ。いい写真ばかりでさ、心に響く物ばかり。今でも憧れなんだ…」

カメラを優しく持ち、レンズを覗きながら、昔を思い出していた。

「どうしてもあのカメラが欲しくてね…。高校の時、必死でバイトして買ったのがこのカメラ…。少しでも親父と似た物を買ったんだけど…」


何かを躊躇ってるように見えた。

そして、一呼吸おき また健吾は語り出した…


「今まで写真を撮り続けたけど、納得してない…」

「何度も何度も撮った…でも親父のようにはいかないんだ。それは平井さんの元で勉強してた時にもわからなかったよ…」


「…………」

私はずっと彼の話しを聞くだけしかできなかった。
気の利く言葉さえ見つからない。

でも、健吾は語ることを止めない…。


「そして、一度コンクールに出した写真が世に認められてプロになった…。けど、世間が俺の事をプロカメラマンとして期待されればされるほど、俺は、俺自身を否定してしまう。期待される筋合いなんてないんだよ…。」
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