涙の夜は語る
「はじめまして、工藤瑞貴です」
柔らかい声。でもどこか冷たいような響き。
転校生は私と里奈のクラスに来た。
季節はずれの転校生は漫画でよく見るように
黒板に自分の名前を書いて挨拶すると
担任に促されるまま一番後ろの席に着いた。
女子の目が釘付けだったのは言うまでもない。
薄い茶色の髪、深緑色の瞳。
明らかに外国人。
すらりとした体型、整った顔、どこか中性的な雰囲気。
ふんわりとした雰囲気とは変わって鋭い瞳。
ぼーっと観てしまっていたのか目が合った。
(…っやば!)
あわてて目を逸らしたけど目を逸らす直前
少し笑われた気がする。
気のせいだよね、と自分の早くなった心臓にいい聞かせる。
すっと斜め後ろの席から一枚のメモが差し出された。
私はいつものようにそれを振り返らずに受け取ると
先生から見えない位置でこっそりと開いた。
『超かっこいいじゃん!佐久間より好みかも!しかも日本語上手いし』
少し後ろを振り返ると里奈がにやにやしていた。
『じゃ、異文化交流しといでよ。』
さらっとペンで書いてメモを後ろへこっそり渡す。
『昼休み、一緒にいこ!』
里奈は私を巻き込むつもりだった。
ちょっぴり肩落として溜息をつくと私は里奈に向けて
ひらひらと手を振った。
よくよく周りを見るとクラスメイトの殆どが
里奈と同じ表情をしていた事に気がついて
私はまた肩を落とした。
(単純……だよねぇ……)
私だってかっこいいなって思ったけれど
この際里奈には絶対内緒にしようと心に誓った。