涙の夜は語る
昼休み、私と里奈が話しかけようと考えていたけれど
クラスメイトの殆どが同じことを考えていたようで
転校生の周りには女子の人垣ができていた。

「里奈、出遅れたね」

「だね、まさかほかのクラスからも来るとは思わないよ…」

キャーキャーと騒いでいる人垣から聞こえる声は
どこの国からきたの?とか
なんで日本語上手いのー?とか

「ちゃんと聞いておきなよ里奈、聞きたいこと全部聞いてくれてるぽいよ」

「自分で話さなきゃ意味ないじゃん」

「なにそれ、里奈ルール?」

「そう、私ルール。いいよ、諦めないであとで聞くからさ」

「そんなに?だって佐久間が一番じゃないの?」

「それはそれ、これはこれー!」

あはははと私と里奈は笑ってふと後ろを見ると
キャーキャーと騒がしい声がふいに止んだ。
なんだろうと見ていると、すっと話題の主が立ち上がった。

(わっ…こっちきたよっルイ)
(わかってるよっ)

小声で私たち二人は彼が来る方から目を逸らす。
横を通り過ぎるってだけなのに
なんか教室の空気が変わってしまった
ような錯覚に陥る。

「あのさ」

上から低音の声が降ってくる。
通り過ぎるはずの声の主は笑みを湛えながらこちらを見ていた。
正確には私と里奈の席の前で足を止めたのだ。
思いもしない出来事に私と里奈は慌てた。

「…はははいぃぃっ!な…ななんでしょう?!」

里奈の裏返った声、ひきつった笑みが工藤君へ向けて発せられた。

「あのさ、君」

君、と指を指された先には私がいた。
それをみて里奈の顔がさらに引き攣る。

「ナマエ、なんていうの?」

とっさに声が出なかった。
なんだか頭の中が酷くぐるぐるしたような感覚がする。

「……コトバこれであってるかな、君のナマエを知りたいんだけど」

まるで人形のようだった。
最初の挨拶の時に綺麗な顔の人だと思ったけれど
その顔は端正すぎて少し怖い。
< 5 / 8 >

この作品をシェア

pagetop