涙の夜は語る
固まっている私を見兼ねて里奈が助け船を出してくれた。

「ええと、この子は篠崎ルイって言います~ね、ルイ?」

こくりと小さく頷いた私に向って工藤君は小さく笑った。

「ふーん、そっか。」

ぞくり、と背中に悪寒が走る。
色気という言葉がぴったりと当てはまるような彼の笑みは
何故かもの凄く冷たい感じがしたのだ。
それだけを言うと彼は何事もなかったかのように教室の外へ行ってしまった。

「……何なのよいきなり」

里奈の声ではっと我に返る。
教室の騒がしさもいつの間にか戻ってきていた。
というかみんなこっち…観てる。

「どう思う?私の事シカトしたよ、工藤君」

「うん。」

「いきなりとかびっくりするじゃん。」

「うん。」

「……ってルイってばまたぼーっとして、聞いてんの?」

「うん。」

私の生気のない返事に里奈は大きなため息をついた。

「あーーーもーーー!何で暗い顔してるの
 ルイってば名前聞かれてたじゃん!」

喜べよ〜とグイグイ私の肩を揺さ振るいつもの里奈に、私も調子が戻ってきた。

「工藤君って不思議系?『言葉合ってる?』とか
 もろ日本語なのにさぁ、なんか変だよ。」

「そういえばそんな事言ってたね」

「ルイもそんなにびっくりする事なくない?」

「なんか頭の中が真っ白になっちゃってさ」

「まー確かにビビるよ〜しかも名前聞いてくる……って、あれってもしかしてナンパ……!」

「……だとしたらどういう関係なのか聞きたいんだけど?」

『げっ…柳沢…』

声をそろえてその名前を呼んだことに後悔する。
里奈の言葉を遮るように威圧的な声が飛び込んできた。
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