初めてのキス
 どのくらいの感覚で睡魔がくるのか知っておきたい。そして、その感覚もね」

「あなたは、外科医じゃないのよ。麻酔を使う外科医が、麻酔を自分に試してから手術してる?あなたのしてることは、それと同じよ。しかも、外科的な治療じゃないのよ」

「麻酔と睡眠薬は違うだろ。手術する時間で量は決まる。麻酔の量は、普遍的なものだよ。 睡眠薬には種類がある。そして、使用期間も方法も千差万別。やめよう・・この話は」

エミはバルコニーに目をやり、呟くように言った。

「治ったかどうかも解らない。中には、精神科医をからかってやろう暇人もいるわ・・。あなたは凝り性なのよ・・。カウンセリングにのめりこんじゃダメ・・」

「ははは!何を言い出すんだ?治ったかどうかも解らない?精神科医の妻らしくないなぁ。医者をからかいに来る?りっぱな患者じゃないか(笑)」

「患者に振り回されないで、って言ってるの!」

「ははは。君には振り回されたけどね」

「私はマトモな患者だったし、治ったわよ。・・あなたのおかげで」

春樹は穏やかな笑みを浮かべた。

「夢を見たよ。最初は俺の両親・・」

「あなた、2日前のこと、覚えてる?」

「ん?うん。なんとなく(^^ゞ」

「睡眠薬を飲んでから、トイレに入ったのよ」

「うん、覚えてる」

「すぐに慌てて出てきたわ。ワケの解らない事を口走ってね。ズボンもあげずに!
そして死んだように眠りこけたの。私、タイヘンだったのよ・・」

「トイレに入ったまま?寝たのか・・」

「いいえ、出てきました。ちゃんと流してありました」

「なるほど・・。てことは、3分以内に睡魔がくるってことか!まるでエーテルを吸引したようだな」

「お疲れだったから、すぐに効いちゃったんじゃない?危ないわ・・」

「起きれて良かった(笑)これでフリダシに戻った」

「え?なんのこと?」
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