初めてのキス
「今診てる患者、かなり興味深いんだ。まるでゲームだよ」

「ゲーム?」

「うん・・。転々と病院を変えてる。前の病院のカルテを持ってきてる。ソレによると、失恋からきた軽い被害妄想らしい」

「何が興味深いの?」

「いや・・。その過去に診察した医者の名前に、オドロキの名前が・・」

「オドロキさん・・て、あの・・轟(とどろき)さん?」

「そう、俺の医大の後輩でもある等々力。いや等々力か?まあどっちでもいいや。君が俺のトコへ来る前に世話になった病院の・・」

「ああ、もう2年以上前の話ね。私もあの人の紹介で、あなたと・・」

「あいつ、ヤメタらしい。しかも、あいつだけじゃない。調べたら、その患者の担当医は、みんな・・」

「みんな?」

「・・やめてる。今は、何をしているのか解らない。医者でないことは確かだ」

「やだ・・。どういうこと?」

「わからん」

「等々力さんに連絡は?」

「その患者に紹介状を書いて、すぐに越したようだ。越した先まで解らない」

「そういえば・・2年くらい前から、年賀状も来なかったわ。ねぇ、調べましょうよ。気になるわ」

「偶然だろうがね、興味深いだろ?」

そう言って、春樹はエミの顔を見つめた。

「私が調べるわ・・」

「うん。今何をしているかなんて興味はない。でも、ヤメタ理由は知りたいな。あいつは、俺に負けないくらい、心療医学に情熱をもってたヤツ」

春樹は一気に冷めかかった味噌汁をすすった。

「ん・・いつもと味が違う?どこの味噌?」

「同じよ。信州のいつもの味噌よ。冷めたせいじゃない?」

「ん。冷めてなお旨い味噌汁もあったもんだ。知らなかった!これはうまい・・」

「そぉ?ホメ上手ね(笑)嬉しいわ」

「今の、褒めたんじゃないよ。わかる?」
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