初めてのキス
私は轟さんを見つけに走った。まずは、洋服屋へ。

こういう時は形から入らないといけない。

グレーのコートに髭、絵描き風の帽子をかぶって自分を盛り上げる。

左手にはアンパン、右手には牛乳だね。

そう思いながら走っていると、何かにつまずいて転んでしまった。

「いったーい」

「大丈夫ですか?お嬢さん!」

えっ?お嬢さん?

何十年ぶりに言われただろうか

私は

「大丈夫です」

といい顔を上げた。

「あっ!」

「あっ!」

「と、轟さん?」

「い、いや、ち、違いますよ」

「うそ!髭着けてるけど、轟さんでしょ!」

「・・・」

「なんで、嘘つくの?」

あたしは必死の形相で捲くし立てた。

もうそこにはお嬢さんの欠けらもない。

「やめたほうが・・いい」

そういい残し、轟さんは去ろうとした。

「おっと・・そんなドラマみたいな去り方を私が許すと思うの?」

「えっ、そんな」

「現実は甘くないわよ」

そういい、私は轟さんの髭を剥がそうと引っ張った。

「い、いててて」

「あれ?」
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