鬼畜王子の飼育方法
周囲を確認した志季は、ようやく手を放して溜め息をついた。
「…ったく。お前はもうちょっと気の利く演技できねぇのかよ。アホ!」
「なっ…元はと言えば志季先輩がっ」
「とにかく行くぞ」
私の言葉をまるで無視するかのように、志季が私の手首を掴んで歩き出す。
「え、行くってどこに」
「昼飯。食わねーの?」
「食う!…けど、夏生がまだ…」
そう言いかけてチラリと教室に目をやると、そこには既に彼女の姿は無かった。
「あぁ、夏生ちゃんなら将人が迎えに行ったはず」
「え、そうなんですか」
「そ。だから俺らもゆっくりしようぜ。二 人 っ き りで」
…瞬間、久しぶりに見えた気がした。
志季の背後にいる、大蛇の姿を。
サーッと血の気の引くような感覚を覚えながらも、志季に引っ張られるまま必死で歩いた。
四方八方からの視線に、志季も気づいているのだろう。
自然と足が早くなっているのが分かる。
それでも、時折「大丈夫か?」と後ろを振り返る志季の姿に、わずかに心が揺れたのは内緒で──。