鬼畜王子の飼育方法
「本当にいいの?志季先輩に言わなくて…」
「うん。余計な心配かけたくないし。ごめんね、夏生」
「私はいいけど…。本当に一人で帰れる?」
「平気平気。じゃあね」
そわそわとついて回る夏生に笑顔を向け、私は鞄片手に教室を出た。
今朝から何となくだけど、身体がだるくて。
もしやと思って保健室に行ってみたら、案の定熱があった。
あの後、志季から何回か着信が入っていたけど、私はそれを無視して鞄に閉まった。
だって……声を聞いたら、絶対泣いちゃうもん。
『偽の彼女』の役割を降板する私が、志季に優しくしてもらう資格なんて無い。
志季──…怒ってるかな。
ううん。
いっそ嫌われてしまえばいい。
もう、苦しいのは嫌だよ。
こんなことなら。
最初から普通に片思いして、普通に告白して、普通にフラれていたほうがまだマシだったかもしれない。
中途半端な気持ちで女避けを引き受けたせいで、必要以上に近づいてしまったから。
志季の優しさに触れてしまったから。
気づいた時には、取り返しのつかないほど、気持ちだけが暴走しちゃってたんだ──。