鬼畜王子の飼育方法
「──あのッ!」
ペダルを踏む込む志季の背中に、思いきって声をかけた。
何事かと振り返る志季の顔が、月明かりに照らされて艶やかに浮かび上がる。
「一つ言い忘れました…」
「…?」
「一週間、ありがとうございました!!」
「え……」
突然の言葉に、固まる志季。
当の私も、恥ずかしさから志季の目を見れずにいる。
「…きもちわり」
───は?
い、いま、何と?
非常に腹が立つ言葉が志季の方から聞こえてきた気がするのは気のせい?
「…何改まってんだよ。バーカ」
「…っ」
だけど。
その時見上げた志季の顔は、本当に穏やかで。
それでいて、眩しいくらいの笑顔だったんだ…。
「じゃあ、明日は遅刻すんなよ」
そう言い残し、暗闇の中へ姿を消していく志季の背中を、私はただ呆然と見つめ続けていた。
…言いようのない、この気持ち。
多分、この気持ちの正体は
夜空にぽっかりと浮かぶ
あの、月のみぞ知る─────────。