それは、春の歌

わざと耳元で囁くと、さりげなくリートは距離をとる。

表情はまるで変わらないが、動揺している。

それがアルディートには、わかる。



「私などを抱いても、やわらかくなどありませんよ」

「かまわないさ」



その言葉を了承と受け取ってリートの体に腕を回す。

なるほど、アルディートより幾分長身の彼女は、女性らしいやわらかさに欠けていた。

しかしだからといって、男性らしい骨ばった様子もなく、どちらでもない抱き心地。

いわば、リートらしい抱き心地に、アルディートは目を細めた。



「シャンプー変えた?」
「いえ」



鎌をかけたつもりだったが、はずしたようだ。

もちろん、匂いで判別できるほど彼女と密着した経験のないアルディートだが、支給品の安いシャンプーではなく、彼女なりに選んだものに変わっていたら脈ありかと思ったのだが。

< 11 / 28 >

この作品をシェア

pagetop