それは、春の歌
わざと耳元で囁くと、さりげなくリートは距離をとる。
表情はまるで変わらないが、動揺している。
それがアルディートには、わかる。
「私などを抱いても、やわらかくなどありませんよ」
「かまわないさ」
その言葉を了承と受け取ってリートの体に腕を回す。
なるほど、アルディートより幾分長身の彼女は、女性らしいやわらかさに欠けていた。
しかしだからといって、男性らしい骨ばった様子もなく、どちらでもない抱き心地。
いわば、リートらしい抱き心地に、アルディートは目を細めた。
「シャンプー変えた?」
「いえ」
鎌をかけたつもりだったが、はずしたようだ。
もちろん、匂いで判別できるほど彼女と密着した経験のないアルディートだが、支給品の安いシャンプーではなく、彼女なりに選んだものに変わっていたら脈ありかと思ったのだが。