それは、春の歌
彼女の低めのどこか掠れた声は、お世辞にも綺麗とは言いがたい。
それでもアルディートは、それが好きだった。
声だけではない。
リートを構成する全てが愛しくてたまらない。
それが恋ではないとしたら、一体なんだというのだろう。
言葉通り彼女を解放すると、リートはいつもの無表情からはかけ離れた表情で、アルディートを見た。
赤く色づいた頬。泣きそうに歪められた、瞳。
アルディートですら見たこともない表情に、動揺した。
「リート。リート・フリューリング」
「はい」
「ボクはキミが好きだよ」
「ありがたい、お言葉です」
「ねぇ、リート」
キミは? と問いかけた言葉を飲み込む。
そんなもの、彼女が自覚する前から知っている。
「ないしょの、恋をしようか」
鍵をかけた恋。
キミとボクで、誰にも内緒の恋をしよう。