それは、春の歌
「王子、本日は剣術の稽古と帝王学以外のご予定はありませんが、いかがなさいますか?」
淡々と、アルディートのそれよりも若干低い声で述べるのは、リート・フリューリング。
もっとアルディートが幼い頃からの守り役として側にいる年上の女性だ。
もっとも、中性的な顔立ちと声、おまけに男のような服装に、城のメイドの大半は男性だと思っているようだが。
この女性こそが、アルディートに懐柔されない、唯一。
「そうだね、では図書室で少し読み物をしようかな。ついて来てくれるかい? リート」
「御心のままに」
一礼する姿に、メイドが少しうっとりとした表情を見せる。
気の移ろいやすいメイドだ。
もっとも、ミーハーなどそのようなものだが。