それは、春の歌
素直になってみましょうか
ノックの音。
コンコン、とゆったりした音色は彼女独特のもので、おそらく本人は意識していないのであろうが、アルディートにとってリートの来訪を告げる音だった。
少し瞬きして、時計を見る。
もしかして、自分は気づかぬ間に眠ってしまったのだろうか。
しかしながら、依然時計の針は動いておらず、彼女の訪問の理由が見つからない。
昔からそうだった。
彼女は自分のもとを訪れるのは、決まった時間の業務連絡。
あるいはアルディート本人による呼び出しに限っていた。
しかしこのノックはリートのものだ。
それなのに訪問の理由が思い当たらない。
とすれば実はリートではないのか。
特殊なノックではないだけに、その可能性は否定しがたかった。
返事もせずに考えにふけってしまったせいで、もう一度そのノックを聞くことになった。
今度はためらいがちに、二度。
やはり彼女のもののような気がする。
確かな根拠などないが。