それは、春の歌
「ねぇ、ミルダン。君はどんな本を読むの?」
そんなメイドに声をかけると、彼女は顔を真っ赤にして上ずった声を出した。
「わ、私ですか?」
「そう。それとも本は読まない?」
「いいえ、そんなことはございませんっ! ……アルディートさまはシンデレラ、という本をご存知ですか?」
知らない者もそうはいるまい。
あまりにも有名な童話だ。
女の子なら一度は手に取り、読むこともあろう。
母親が聞かせる話としても名が高い。
義母や義姉にいじめられていた灰かぶりが、王子様と結ばれる物語。
「知ってるよ。そうか、ミルダンはそういう話が好きなんだね」
「は、はい。子供っぽいかもしれませんが……」
「そんなことないよ。かわいらしくて、いいと思う」
にっこり、と。
形容するなら天使のような笑顔をアルディートは見せた。
ミルダンはまた顔を赤く染めるが、リートは相変わらずの無表情で沈黙を保っていた。
「女の子はそういうのが好きなのかな。どう思う? リート」
「申し訳ありませんが、私に聞かれても困ります」
それでは、自分はこれで。
そう一礼してリートはその場を後にした。