それは、春の歌
「本日はどのような本をご所望ですか?」
「とりあえず人気の少ない本棚のあたりに」
「王子、私は本棚の話ではなく、本の話をしているのですが」
約束どおり図書室に二人はいた。
茶を貴重とした古い、しかし威厳ある図書室。
本の匂いと膨大な蔵書に圧倒されそうになるが、二人はよくここに足を運んだ。
「ボクの言うことがきけない?」
先ほどまでのにこやかで優しげな雰囲気はどこへやら。
むっとした表情はいかにも子供っぽい。
リートは内心でため息を落とすと、わかりました、と小声で返した。