それは、春の歌
身分違い、忍ぶ恋
アクタイオンの第一王子は美しいことで有名だった。
リートもそれに関しては否定しない。
ただ、非の打ち所がない、と言われると首を傾げざるをえない。
彼だって、人間なのだから。
だから、彼が猫をかぶっているのだということを、リートは知っている。
誤解の無いように述べるなら、それ自体は悪いことではない。
後に国王となる男だ。
体裁は少しでもいいに越したことはない。
人間性はともかく『王子』としては大変よろしい心がけだ。
ただ、それでもリートが困ってしまうのは、その猫を暑苦しいとばかりに脱ぎ捨てるのが彼女の前でだから。
『ボクのものになってよ』
この間囁かれた言葉が消えない。
いつもの、戯れのような好意を示す言葉とは、明らかに違う口調だった。