嘘恋
出会い〜ある冬の出来事〜
よかった…。

山野沙織は、胸を撫で下ろした。

ここは、渋谷の先のとある私立女子大学の構内。
滑り止めの大学とは言え、合格しているのと不合格では 全く気分が違う。
願わくば本命の公立の大学に合格出来れば、なお良い。

沙織にとって、大学進学は特に目的のあることではなくて、とりあえずの流れ。

短大を出て、就職をして、24歳くらいには 結婚して……… 。

その為の、必要最低限な嫁入り道具。

大学進学。

沙織は、合格発表の掲示板を後ろにしながら、校門の方へ向かう。

構内はいかんせん、混雑していて 仕方なく 適当に腰を落とせる場所を探す。

噴水のある広場スペースにベンチを見つけると 腰を下ろした。

カバンから携帯を取り出すと、母親に電話をかけた。

「もしー?」

「どうだった?どうだった?」

沙織よりも興奮気味の母親。

「大丈夫だったよ。とりあえずよかったわ〜」

沙織の合格の知らせに、母親もまた、胸を撫で下ろした。

「帰り、少し買い物してくから遅くなるわ、ご飯いらないから」

沙織は、電話を切ると 受信メールを開く。

マツくん。

【結果どうだった?】

沙織の、……… 一応 彼氏。

に、なりかけの男の子。
【合格してたよ★よかった(v^-゚)】

沙織は、返信した。

松本 良平。マツモト リョウヘイ。

地元の自動車学校で、夏に出会った。

二人は高校は違ったが、教習所に通ううちに 自然と仲良くなった。

少しすると、彼からまた メールがくる。

【よかった!夜会える?】

【ありがとう。まだ渋谷だから8時くらいに駅つくかな。ちょっと買い物したいから】

【わかった。駅着いたら電話して、迎えいくよ】

何通かメールのやり取りを終えると、沙織は 席を立つ。

歩きながら、メールを親友にも送信する。

もちろん、合格のメール。

そして、メールの送信ボタンを押した瞬間、沙織の視界が、消えた。

「……ん…」

「大丈夫ですか?」

目のまえには、大きな手が差し延べられたかと思うと、沙織は引っ張られ、身体を抱き抱えられると 地面から立ち上がる。
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