嘘恋
「合格?」

男は、沙織の様子を伺う。

「とりあえず…」

「よかったね。合格してるわ、コンタクト見つかるわじゃ」

確かに……。

不合格でコンタクトも見つからかなかったら最悪だ。

「女子大生かー」

「ここのひとですか?」

「俺?」

「はい、うん…」

「いや、違う」

なんとなく、怪しかった。

女子大というわけではないが、ここは女子の比率のほうが多くて、男子がほぼいない。

「あ。いま、俺を怪しんでるでしょ?」

タバコをくわえたまま、男は沙織を横目で見る。
「いや、別に…」

はい。とは、言えない。
「いや。完全に、男がこんなかに学生じゃないのに侵入してる、変態だと思ってる眼差しだ………」

男は沙織の顔をマジマジと見つめた。

沙織は、こんなに間近に… マツの顔でさえ、こんなに間近に見る事など ないので

心境、穏やかではなかった……。

結構、良いカオをしていたから………。

赤くなりそうな、沙織。
「アサノトモヒサ。よろしく」

そう言って、アサノトモヒサは右手を出した。

沙織は、ポケッとしてしまい、少し遅れて

「山野沙織です」

握手。

なんの脈絡も 繋がりもない二人が

ひょんな偶然から、出会った。

初めての日。

きっと 二度と会わないだろう、出会い。

ほんの30分くらいまえのアクシデント。

いろいろな偶然という名の必然の積み重ねで、人は、動かされている。

偶然は、必然。

運命。と 言うと、今時 重たい。

だけど、人生の選択肢を、一つでも間違えれば、同じ出来事は 起こらないかもしれない。

人生は 「かもしれな」いの連続。

【たら】【れば】 は、後悔するときに附属される助詞。

二人は出会ってしまった。

出会ったら、…
出会えれば、…。

沙織とトモヒサ。

この二人に、お互いが、『出会わない』ということが、選択できたのならば。

そう。

ならば、の 話。

二人の人生は、すでに、時を刻み始めてしまった。

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