嘘恋
「沙織ちゃん」

トモヒサが沙織の名前を呼んだ。

「なんでしょうか……」

「別に。ただ呼んでみたハハハっ」

この人、良く笑うなぁ。
良く笑い、良くしゃべり、良く タバコを吸う。

少し昔の着うたが流れた。

トモヒサの携帯。

「ゴメンね、」

トモヒサは沙織に一言いうと 電話を繋ぐ。

「どうしたの?」

微かに、相手の声が聞こえる。

「うん、今から千葉だから」

女の声。

「遅いよ。一人だよ」

帰りの時間を聞かれているのだろう。

彼女、かな。

「おかしくないよ。普通、普通」

女って すごい。

彼氏の行動が見えてるみたいに 話しをする。

「おわったらかけるよ、運転してるからさ」

トモヒサは電話を切った。

「彼女?」

「なんで?」

「どこにいるの?誰といるの?帰り何時?いつもと違う。…とか言われたでしょう」

沙織は少しにやけて、仕返しとばかりに トモヒサの顔を覗き込んだ。

「スゲェな、アハハ。盗聴?それとも自分もしてるから?」

トモヒサからの反撃。

「浅野さんの返す言葉でだいたい、わかる…」

「さすが。女の子だな」

「嘘は良くないよ…」

トモヒサは、沙織をちらっと見ると、

「ケースバイケースだ」

と 答えた。

『一人だよ』

トモヒサのこの言葉。

確かに 他は 嘘はついていないけれど。

「やだな。私もおなじことされたら…」

「やましいことないだろ」

「だったら、嘘つかないでいいじゃないですか」

「俺の沙織ちゃんの話しを最初からすんの?いちいち?」

「…」

確かに、一瞬の僅かな時間で この話しを全て話せるわけなどないし。

あの場で ベンチを立ち上がったあとは サヨナラすればよかった。

沙織も 沙織だ。

「停めて下さい。私、降りる」

「あのなぁ…。こんななんもないとこで、…」

沙織はトモヒサの言葉を遮った。

断ればよかったのに のこのこと乗り込んだ自分。



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