何度でもなんどでも

ある日、回診の時間でもないのに、先生がいらっしゃって

私を散歩に連れ出してくれました。



それがお会いする最後になるとも思わず、私は車椅子の上ではしゃいでおりました。


先生の表情は見ることも出来ずに。




先生が連れてきてくださったのは、



医院のそばにたつ大きなサクラの木。



ちょうど満開をむかえようとする時期。


サクラは見事に咲き誇っております。



「先生?」


私はその時ようやく先生の顔を見たんです。





先生はきゅっと口を結んでサクラの花を見上げておりました。



「先生?」


「…私は明日出征することになりました」


「え?」


「だから、最後にあなたとこのサクラを見たかった」


「先生…」


「ここには他に誰もいません。お願いですから私の名前を呼んでください。私もあなたのことをお名前でお呼びします。今しばらくだけ」



「…はい」


「華さん。私はくやしい。いつかあなたと話し合ったあの時代が来る前に…」


「幹太さん。私は…」



「華さん、私はあなたのことがずっと好きでした。今も。これからも」


「幹太さん…私もです。ずっとお慕いしておりました。」


私の目からも、多分幹太さんの目からも同じように涙がこぼれ続けていました。




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