シャンゼリゼで待ち合わせ
「そんなに急に辞めたりして、大丈夫なの?」
「大丈夫よー。たかがバイトのために、親友が彼氏に会えなくなっちゃうことのほうが、一大事なんだから」
だいたい、私ひとりが辞めたってかわりはいくらでもいるし、と紗江子は笑う。
それにしたって、私がフランスに行きたいと紗江子に言ったのは、ついさっきのことなのに。
ほんの数時間の間に、私のために、ここまで…。
ここの店長が怖いことは紗江子だって知ってるのに、こんなこと、なかなかできることじゃない。
「…ありがとう」
急にうれしさがこみ上げてきて、鼻の奥のがツンとなった。
「紗江子、ごめんね」
熱心にショーケースの中のケーキを見ていた紗江子が、顔を上げた。
私の目に、涙がたまっているのを見て、
「どうしたの?やだ、泣かないでよ」
と驚いていた。