赤の疾風
…梳菜が暖簾をそっと腕で押し上げた時、
「…うっ…!」
胸に、鈍い痛みを感じた。
とん、と壁に付かれた手はギュッと握り締められ、もう一方の手は痛んだ胸に。
「…ぅ…、はっ、ぁ…!」
数回肩で息をすると、胸の痛みと息苦しさは和らぎ、
「…はっ…ふ、ぅ……。」
すぐに、違和感は消えた。
「…いけない…お仕事が残っとる…。」
額に滲んだ汗を軽く拭い、梳菜はすぐに顔を上げて、
女将のいる宿屋の中へと、
駆けていったのだった…――。