赤の疾風
「梳菜、さっきの言葉、しかと聞いた。
拙も、お主に礼を言わねばならん。」
「え…?」
梳菜としては、さっきの赤ん坊のような泣き声を聞かれてしまったことに多大な恥ずかしさを感じていたが、その直後に萬天が付け足した“礼”の意味が分からず、ただ首を傾げる。
すると、急に視界が狭まった。
萬天が顔を近付けてきたからだ。
「ひとつは、拙に、感謝される喜びとやらを教えてくれたことに。」
…風に乗って耳に届いた梳菜の感謝の言葉。
それを聞いた瞬間、梳菜が危険な状態だというのに、不謹慎にも幸せと思ってしまった。
これが、喜びというものなのかと、気付いたのだ。