赤の疾風
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いくつもの屋根を越え、いくつもの雲を越えた萬天と梳菜。
二人は、今日逢う約束をしていた松の木の下に足をつけた。
そこは、朝のまま。
烏天狗も林火も、人間の姿もない。
梳菜は子どものように松の木に駆け足で夜と、そのざらざらとした手触りを肌で感じた。
「萬天殿、わたし、松の木も初めてどす!
お宿の近くまでしか、行ったことがないもので!」
興味津々に、幹の周りをぐるぐると回ったり、葉や枝を見上げたり。
萬天はというと、そんな梳菜の楽しげな姿を見ているだけで、胸が満たされる気分だった。