赤の疾風
【何故これまで、萬天様を殺すような真似を?】
爪で切り裂き殺そうとするなど、正気の沙汰ではない。
一歩間違えれば死ぬかもしれないのに。
これには、邪鏡も困ったような顔をして、答えを返してきた。
【…初めは、我らも本当に萬天様を殺すつもりだった…。
理由はどうあれ、仲間を棄てる者を長には出来ん…。
だが、皆の話し合いの結果、最後の試練として、萬天様の生死を判断したのだ。】
このとき邪鏡は、あの松の下で自分が出した条件を、再度よく思い出していた。
梳菜を救う代わりに天狗の仲間に戻るか。
梳菜を見捨てる代わりに天狗と縁を切るか。
萬天は、幸いにも前者を選んだ。
そのお陰で、今の萬天があると言ってもいい。