赤の疾風
空気が一瞬止まった気がした。
「天狗を棄て、人間にもなれず、絶えず命を狙われ続ける身がどれほど苦痛か、お主は知らぬだろう。
もし、拙が唯一心を許す梳菜に拒まれたときは…、
拙が、この浮世に生きる理由はない。」
【!!】
ようやく、林火は思い知らされた。
萬天にとってもう、この世は故郷でも何でもなく、ただ彼を苦しめる病魔と同じだということを。
その梳菜という少女によって、かろうじて片足を地に付けているに過ぎないことを。
林火は何かを憂えるように、そっと目を閉じて黙考した。