赤の疾風
「……お主は、何も言わんのだな……。」
萬天は、林火による惜別の言葉を待ったわけではなかった。
ただ、自分の主君の死が近づいているかもしれないという状況でも、こうして忠義を尽くし、主の意思に反することは言わないのだな、と、確認したのだ。
【主君の言葉に背くのは…反逆と同じに御座いますれば……。】
だから、別れを惜しみはしないのだ。
表側ならば、麗しい忠義の念。
だがその慎み深く、美しいまでの忠義は、裏を返せば…死んでも構わない、という意味で取れた。
それを口に出すことはせず、萬天は一言「そうか」とだけ呟くと、
その場に林火だけを残し、夜の帳に消えて行った。