もう一度 笑って
「もしかして父親に連絡したのは……」

朝倉があたしの唇にそっと指を乗せた

『それ以上言うな』という目をして

「男は背中で語るんだ
ほれ。俺の背中を見てみろ!
俺の気持ちが滲み出てきているだろ?」

朝倉が私に背中を見せてきた

「出てきてないし!」

あたしは朝倉の背中を叩くと、足を組んで窓に視線を動かした

あたしのせいだ

あたしが朝倉の未来を変えた

あたしの未来が自由になったけれど、変わりに朝倉の将来が決まってしまった

医学部に進学が決まっていた朝倉なのに
きっと大学に行くために
一生懸命勉強したはずだ

その努力をあたしは無にしたんだ

「気にするな」

朝倉があたしの頭をポンポンと叩いた

「別に気にしてません」

窓に向かって、あたしは不機嫌な声を出した

朝倉はふっとほほ笑むと、視線を前にした

「俺は大学に通いながら、親父のもとで働く
それだけだ」

「え?」

「諦めたわけじゃねえ
俺らしく生きられる道を探すだけだ」

「嘘ばっかり」

朝倉は嘘つきだったのを忘れてた

冗談と嘘が上手だった

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