もう一度 笑って
「……母親が、再婚したんだ
新しい家族に、俺は必要ないから
ずっとさ、親父の実家にいたんだけど
じいちゃんもばあちゃんも
死んじまったから
だから一人暮らし」
朝倉が首の後ろを右手で掻いた
少し恥ずかしそうにハニカム姿が愛らしく見えた
「…って何、話してるんだろうな、俺」
朝倉が立ち上がると
あたしに背を向けた
背伸びをして
カラーボックスの上に置いてある目覚まし時計に
眼を向けていた
「智世は?」
「あん?」
「智世は知ってるの?
朝倉の……こと」
「知らねえよ
誰も知らねえよ
海も、智世も」
なんで言わないの?
質問しそうになって
あたしは口を閉じた
朝倉が無表情で血だらけの制服を見ていたから
無表情の顔で
何を考えているのか
わかってしまったから
放課後
人目を忍んで会っていた智世を
思い出しているのだとわかったから
あたしは何も言えなくなった