許嫁
「きゃ・・・」


バランスを崩したことを察して、来るはずの衝撃に備える。


「危ない!!」


痛くない。


健太に抱きとめられている事実を認識したのはしばらく経ってからだ。


慌てて離れようとすれば、健太の腕の力が強くなったように思える。


「凛、俺・・・」


「健太君、いる?」


バンっと大きな音をたてて聞き覚えのある声とともにドアが開く。


「あら、邪魔しちゃったみたいね。私はすぐに出ていくから、気にせずごゆっくり。あぁ、そうそう、頼まれていた資料ここに置くわね」


「お母さん、ちが・・・」


最後まで弁解を聞き入れられることはなく、再びドアが閉まる。


「じゃあ、俺行くわ」


「あぁ、そうね。引きとめちゃってごめんね。大道具のことよろしくね」


「あぁ」


どうもぎこちない。
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