許嫁
「お2人がお付き合いなさっているのは知っています。ですがそれはただの婚約者だからという理由ではありませんの?」


「・・・」


私を先に教室に入れ、桜子はドアを閉め、鍵を閉める。


「私は今日、健太様に告白いたします」


「・・・どうしてそれを私に?」


「私、ひきょう者にはなりたくありませんの。もちろん、フラれるのは承知の上ですわ。けれど、あなたがそうやって余裕をみせてる間にも健太様は私に振り向いてくれるかもしれません。6つの時よりお慕いして10年。邪魔はしないでください」


そう言って一礼する彼女は素敵だと思う。


「あなたの告白の邪魔はしません」


そういうことしかできなかった。


『付き合っていない』そう真実を伝えることができたはずなのに、なぜ自分はしなかったんだろう。


それにこの不安感。
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