許嫁
「そうだな。一目ぼれに近かったんだと思う。両親の友人の娘さんで、一度会ったきりだったのに、どうしても忘れられなくて」


「それって、牧野さん?」


「あぁ。自分の婚約者と言われた時は両親に感謝したよ」


健太は少し照れたように頭をかく。


こんな彼を初めて見た。


かなわない。


彼にこんな顔をさせるなんて私にはできない。


「その愛しい、婚約者さんが不安げに様子を見られていますわよ」


凛が不安げな様子でこちらを伺っている。


「では、これで失礼いたしますわ」


そう言って健太を一人残してその場を後にして戸口にいる凛の方へと歩みを進めた。


「嘘ついてごめんなさいね。でも、逆恨みくらい許してほしいわ。私は恋をした時点であなたに負けていたみたいだから」


凛に耳打ちすると桜子はにっこりと笑って歩き去った。
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