暦屋 [ss]
本編
 暦屋のおじさんは何時も白い手袋を左手に嵌めている。それからシルクハットを被っている。

 何故と問われてもそうだからそうなのだ。

 理由を後付けする必要なんて何処にもない。

 暦屋は大切なモノを失った人のためにある。その人は大人になってもうこの町にはいないかも知れない。でも、暦屋は大切なモノをその日に人に届ける。大切なモノをなくした日はずっと心に残っている。

「場所なんて関係ないのです。大切なのは暦なのです」

 おじさんの切れ長の瞳の中には今は「四」が入っている。

「四日ネ」
「ええ、四日になりましたね」
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