water song(みずうた)
手渡された杯に、幸いな事に腕に残されたままだった、二つの石を入れる。

一度杯を洗い、再び水で杯を満たす。

石を取り除き、杯を狼男に渡す。

一瞬で干され、ずいっと空の杯を押し付けられる。

「もっとくれ…あ、その前に、お前も飲むか?」

問いに首をふる。

「渇いてない」

空の杯に、二つの石を再び落とす。

水で満たされた杯を狼男に渡す。

また一瞬で干され、…を20回ほど繰り返し、狼男はようやく満足したように、ため息をついた。

「桶でもあれば良かったな。」

「なぜ?」

不思議に思って問い返すと、大きな手で、頭をわしゃわしゃ撫でられた。

「何回も、水を注がせて悪かったな、てことだ。」

首を横に振る。

「代償にしては安い」

「そうか」

再び少し乱暴に頭を撫でられた。

私達は、ようやく盗賊達から逃げ出して、見つけた廃墟の影で一休みしているところだった。

逃げ出す時に持ち出せたのは、狼男の荷物と少しの食料と、火を焚くための固形燃料。

あの状況にしては、まぁまぁのものだと思う。

「全く。
調子が良かったら、あの程度の盗賊団、壊滅させてやったんだがな。」

狼男が血の気の多いセリフを吐いた。
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