water song(みずうた)
少しだけ血が出ていた。

獣の爪に引っ掛けられたのだろうか?

私は、問題ないと首をふり、さげていた鞄から杯を取り出し、水を左手にかけた。

何故か、その行為にミゲルと向き合っていた獣が怯む。

同じく様子を見守っていたゼルドさんが、突然思いついたように、自分の鞄をあさり始めた。

鞄から取り出したのは…扇子?あれは武器に見えないけど…?

「さて、お立ちあい。このなんの変哲もない扇子…」

ジャリッ!

ミゲルの隙をつき、ゼルドさんに…というより扇子に一撃を放とうと獣が動いた。

ザッ!

砂埃が視界を遮る。

ゼルドさんが、足元の砂を蹴り上げたようだ。

「ちちち、お客さん、短気は損気ね」

指を振っているゼルドさんが視界に写り、一安心する。

ゼルドさんは、獣の爪から難を逃れた扇子をひと振りして、扇子を開いた。

カチリ。

硬質的な音が響く。

その扇子は、普通の扇子と違って見えた。

つまり、何というか普通の扇子より厚い。

硝子でできた透明なそれは、開いた時に両端に埋まった石が見えて。

(あれは…命石?)

ゼルドさんが扇子を揺らすと、扇子はユラユラと、光を拡散して。

(扇子に水が入ってる?)
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