water song(みずうた)
最初の一撃目は、わずかな水滴が獣にかかっただけだった。

でも、効果は抜群…というか、先程ミゲルが獣に放った一撃より効いているようだ。

水滴が当たった部分が、僅かに削り取られたように、獣から消失している。

ミゲルが剣で斬りつけた前足は、傷一つ付かなかったというのに。


水が弱点という事は、それではっきり証明された。

そして、目の前の獣には血が通っていないという事もわかった。

削り取られた傷口からは、体液らしきモノが一切伺えない。

(砂人形のようなモノ…なのだろうか?)


ゼルドさんは、ふわりと踊る様な足取りで、獣に近付く。

「水芸を披露しようと思って持ってきたけど、こんな所で役に立つとは意外ね」

(み、水芸…?)

「あまり近寄らない方が、良いんじゃないですか?」

セリが心配そうにたずねる。

「それが困った事に、この扇子、射程距離短いね」

軽口を叩きながらも、ゼルドさんは油断なく獣との距離をつめた。
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