water song(みずうた)
女の側に居た蠍を仕留めた時は、「コレが蠍…」と呟き、摘み上げしばらく観察していた。

尻尾に触らなければ害は無いと放置しておいたが、その様子は初めて玩具を与えられた子供のようで微笑ましかった。

その後の移動は、夜間は俺が変身して運ぶ事にした。

女の歩くスピードに合わせて歩くと、食料が、街に着く前に尽きてしまうのは確実だったからだ。

++++++++++

出逢いから2日後の夜。

俺は一方的に話す事に飽き、女に「歌は歌えるか?」ときいた。
ポツリポツリとしか話さない女の声をもう少し長く聞きたかった…というのもある。

「歌」

呟いたあと、女は朗々(ロウロウ)と、不思議な歌を紡いだ。

その歌は、心の深い所と体に染み込んでいくようであった。

俺は、酩酊(メイテイ)に似た状態に陥りかけた。

しかし、女の歌の中で、気になった単語があったので、女にたずねる。

期待した答えは返って来なかったが、いい加減名無しは不便だろうと思い、“リール”という名前を提案してみると、気に入った様だった。

現(ウツツ)と女…もとい、リールを隔てていた膜が、少し揺らいだようだった。
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