water song(みずうた)
酒臭い吐息が此方まで伝わって来そうだ。

私でさえそうなので、酔っ払いに真っ正面に立たれたガルンは、思いっ切り顔をしかめて背けた。

そう、酔っ払いの男は、迷わずガルンの方へと行ったのだ。千鳥足ではあったが。

流石黙っていれば天使顔のガルン。

男にすらその色香は有効らしい。

「そんな嫌そうな顔、しないでよ、カワイコチャン」

ガルンの顔に青筋が浮かぶ。

「誰が“カワイコチャン”だ」

「あれ?意外と太い声だ。乱暴な口調も良いけど、もっと可愛くした方がモテそうだよ」

ガルンの杯を持った手が震えている。それを見た酔っ払いが宣(ノタマ)う。

「脅え無くて良いんだぜ、カワイコチャン。お兄さんはこう見えて優しいよ」

「ガルン、酔っ払い」

ガルンは利き腕をもう一方の腕で押さえている。

「わ・か・って…る」

怒りのあまり、話すのも辛そうだ。仕方無い、面倒臭いんだけど、このままでは乱闘になってしまいそうだから。

(ガルンが圧勝するだろうけど)

私は立ち上がり、酔っ払いを追い払うべく、口を開く。

「すみませんが、私達は…」

「ほぉっ。連れのコも可愛いねぇ」
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