water song(みずうた)
まぁ、記憶がないから、この男の情報が全く役に立たないわけでもないし、聞けるだけ聞いておこう。

私はため息を付き、男への質問を再開した。

++++++++++

盗賊の男の奥に、鉄格子が有るのに気が付いたのは、盗賊の男への質問があらかた終わった時だった。

ふと、先ほどまでは気が付かなかった微かな血臭が、鼻を掠めた。

「その牢の中に、誰か居るの?」

聞くと盗賊の男は、私から牢の中が見えるように移動しつつ、得意げに、答えた。

「ムーンラック族、らしいぞ」

「ムーン…ラック?」

初めて(多分)聞く単語に眉をひそめる。

「なんだ、お前、ムーンラックも知らないのか?」

盗賊の男が言うには、ムーンラック族とは、月明かりで獣人や獣に変化する種族…らしい。

代表的なのは兎や蜥蜴、狼。
昼間は普通の人間と変わらないし、本人の意志で変化するので、月明かりがあるからといって、必ず変身する…というわけでも無いらしい。

「ふーん」

興味深く、牢の中を覗き込むと、全身傷だらけの若い男。

それなりに筋肉は付いているが、細身で背も、それ程高く無さそうだ。

伏せられているため、顔は良く見えない。

身動き一つしない。
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