water song(みずうた)
「ガルン、落ち着いて」

血走った目で私を見るガルン。ゼルドさんの事が、よっぽどイヤなようだ。

だけど、そのせいでせっかくの機会を台無しにされるのはお断りだ。私はガルンの説得を試みる事にした。

「養殖場、ちゃんと見学したい」

その言葉にはっとするガルン。ゼルドさんが視界から消えたのも、ガルンが我に返る要因となったかもしれない。

「あ…、そ、そうだよな。わ、わりぃ。何か焦っちまって」

「漬け込まれる」

「何かどうも、あいつの顔見るとカッとなるというか…」

ガルンはため息を付いた。

「情けないとこ、見せたな…」

言いながら、ガルンは私の手を離した。薄れる体温が、少しだけ寂しかった。

パシャン。
水音にそちらを見ると、係の人が丁度餌をまいている所だった。
水魚達が勢い良く餌に群がっている。

「沢山いる」

我先にと餌に食らいついている。沢山の生きている水魚が珍しく、思わず見入るガルンと私。

「あんだけ水魚いたら、毎日食い放題だなぁ…」

ガルンがウットリした顔で呟いた。何というか、ガルンらしい感想だ。

「ガルンさんは色気より食い気ね。僕は、あれだけ多くの水魚を一つ所で育てる技術の方が…」
< 72 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop