water song(みずうた)
あらかじめ、人払いがされていたのか、道には人が居なかった。

今は夜のようだ。

通りは暗く、深閑とし、ヒンヤリとした、昼には無い気温。

家々の窓から灯りがもれている。

「リールさん、あなたのおかげで、街から月を見る事が出来なくなってしまいましたよ」

言われて、不安定な状態ながら上を見上げると、夜空がぼやけていた。

(…水?だけど…)

「何故か水滴は、一粒も下に落ちて来ませんがね」

私の心を呼んだようなタイミングで、街長がつぶやく。

「まさに人間技ではありませんな。一体、どういう仕掛けなんでしょうね?」

「知らない」

私は、言われるままに歌っただけだ。

しかも、あの状況で歌った為か、歌詞の一片すら覚えていない。

(歌詞を覚えていれば、どういう効果かくらい判ったかもしれない。“蔦揺らしの歌”みたいに)

「惚けられるのも今のうちですよ。まぁ、このような状態では、まともに話も出来ませんね…」

街長は随行(ズイコウ)している警備兵を急かし、自身も早足となった。
< 92 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop