water song(みずうた)
私は力一杯戦ったと思う。

しかし、残念ながら敗北してしまった。

(お嫁に行けない…)

いや、元から行くアテなど無いのだけれど…雰囲気で。

髪は、引っ張り上げられてアップ。

顔や体には、色々塗られた。

服は、着なれたものを取り上げられた。

鏡にうつった自分を見てため息。

(これじゃガルンと会っても、多分ガルンは分からないかも…)

それ程に、私は変貌をとげていた。

服のすそをつまむ。

透けた生地が何枚も重ねられ、何というか…とても動きづらい。

普通の女の子は嬉しいのかも知れないけど、私は…。

(飾る意味が解らない…。というかこれじゃ益々脱走しにくい。)

街長の屋敷に連れて来られる前にチラリとだけ見た、水が広がる空。

中央広場の噴水から吹き出しているそうだが、この目で確認したいのだ。

それに、なにより。

(ガルンは一体、どうしたというんだろ?何処にいるのかな…)

ぼんやりとまた、ガルンを思い浮かべている。

刷り込みのように、私の心からガルンが離れない。

一緒に居たのは、短い間だというのに、もう既に何年も一緒に過ごしたような感覚を彼に感じていた事を悟る。
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