water song(みずうた)
長く、足元までからんでくる裾。

それをヒールのついた、華奢な靴で蹴り上げるように歩く。

靴も、元から履いていたブーツを取り上げられた。

高くて細いヒールは、それだけで私の足枷となっている。

(狙ってやったんじゃ…)

邪推したくなり、首をふる。

(いいや。脱いでしまおう)

さっきまで、敗北感に呆然と座っていたソファの前に、きっちり並べておく。

取り澄ました服も靴も、全てが違和感しか感じない。

(“私”じゃ、ない)

じゃ、“私”って、ナニ?

問いには答えが返らない。
見つけられない、“私”。

(止めよ…)

“私”について考える事を、いつものように放棄した。

靴を脱いだ足を下ろした部屋の床には、毛足の長い絨毯がひかれている。

裸足の足にも気持ち良い肌触り。

(お金かかってるなぁ…)

お金…。

まさか、私を着飾らせたのって、後で無理矢理お金請求するため…とか。

(やはり早急に逃げ出さねば)

部屋の中を動き周り、何か脱出に使えるモノが無いか探してみる。
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