教師失格☆恋事情
キャタピラの材料になる段ボールを眺めて、眉間にシワをよせる佐山にそっと近付く
佐山の綺麗に手入れされた爪が汚れていて、もっと早く助けてやればよかったなと思った。
「佐山、貸してみろ、俺ならそんなの1分で出来るぞ」
失敗して丸められたガムテープを見られたことに、恥ずかしそうな顔をする佐山を見たら、少し苛めてやりたくなった。
好きなコの困った顔をもっと見たくなった、小学生の子供みたいに。
「意外と不器用なんだな」
からかい半分で言った俺の顔を、怒ったような顔で見る佐山を可愛いと思ってしまう。
他の誰にも見せたくない、なんて思ってしまう俺は
とんでもなく教師失格
「先生、綺麗に作って下さいね。」
「任せとけ」
「…このキャタピラ、体育祭が終わったら壊しちゃうのかな」
「…ん〜そうだな…来年使うかどうかは微妙だな」
「…捨てないで欲しい」
「…捨てないでって…、体育祭以外に使い道ないぞ、こんなもん」
「こんなもん…なんて言わないで下さい…。…絶対、優勝が目標なんですから」
「おう、いい心意気。佐山は生徒の鏡だな〜。俺も鼻が高いよ」
「………」
いつも通りの会話
それのどこに佐山の表情を曇らせる要因があったのか
何かを考えているような佐山の表情は悲しそうに見えた。
佐山にそんな顔をされると、動揺する自分がいて
「お、俺も負けてられないな〜、佐山に誉められるような素敵教師になんなきゃな」
佐山に笑ってほしくて、わざとおどけて言ったのに
そんな俺の思惑は見事に外れた。
「…っ、佐山…?」
「秋吉先生〜」
遠くで俺を呼ぶ生徒の声がしたのとほぼ同時に
目に涙をためた佐山がキャタピラの陰に隠れた。