Bitter Chocolate
 本当はワックスでしっかりキメたいし、着古したスウェットを着替えたいところだけどそんな手間をかけていたら大槻が帰ってしまうかもしれない。


 俺は出来る限り駄目な外見を取り繕うともう一度仕上げの深呼吸をして玄関のドアノブに手をかけた。

 ガチャっと音を立ててドアが開くとほんの少し冷たい夜風が入り込む。今日はここ数日の中でも暖かい部類の夜だが寒いものは寒い。

 俺は白い息を吐きながら大槻の姿を探す。

 街灯の明かりに照らされた植え込みや電柱が長い影を伸ばしている。

 元の物質をデフォルメして歪ませた長い影の中に大槻の姿を見つけた。
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