君と僕<短編>
1.
君は小洒落たカフェがすきだ。
「順子、またカフェ行くのか?」
って僕が言うと、
「うん!今日、いい天気だからさ」
と言って、車の鍵を手渡した。
僕は正直嫌々だった。
わざわざ隣街にあるカフェまで行くのは面倒臭い。
それも、休みの度にだ。
君は、「いい天気だから」って言うけど、この間は豪雨だったのに無理矢理車に乗せられた。
エンジンをかけて、車を走らせる。
「順子、そろそろ車の免許取れば?」
「太郎が運転してくれるんでしょう?」
順子は、こっちには目もくれずに言った。
ワガママだけど、何故か愛おしかった。
「着いたよ」
車をいつもの駐車場に停める。
君は、嬉しそうに車から降り、スキップ混じりで店に入った。
腐るほど見てきたこの店の店内、本当に変わり映えしない。
若く、無口なマスターと、ダラダラと空の皿を片付ける店員。
本当に緩く、入った瞬間、思わずあくびが出た。
君に手を引かれ、僕はよろける。
君はこの店に来ると、いっつもこの調子でテンションが上がる。
僕といても、面白くないのだろうか。
いつもの席に腰を下ろし、君はコーヒーとアップルパイを注文した。
僕は金がない。
理由は、しがないミュージシャンだからだ。
いつもヘッドフォンを首に下げ、パーカーにジーンズというお決まりのスタイルで活動中。
でもまだ、金を貰えるほど大きくなってはない。
アコースティックギター片手に曲作りの毎日だ。
たまに、君は僕のどこに惹かれたのか分からなくなる。
でも、傍にいれるだけで幸せ。