君と僕<短編>
3.



4月5日

PM9:30

渋谷、ハチ公前。

この日の東京は、生憎の大雨。


僕はビニール傘を差し、ギターケースを担いでいた。

君は、ガランとしたハチ公前を虚ろな目で見つめている。


「また、違う日にしない?」

君はごねるけど、僕は気にせず、雨宿りできるような場所を探した。


君の手を握り、歩く。


さすがに春とはいえ、雨が降ってしまえば凍えるように寒い。


君が、小刻みに震えているのが分かった。


「あ、とりあえずあそこで休もうか」

調度良い場所を見つけ、君の手を引く。


上に屋根が付けられ、その下にはベンチが置かれている。


僕たちは、一先ずそこに座った。


「寒いね・・・」

君は、唇を噛み締めた。

「うん・・・ごめんね。でも一曲、聴いてもらいたい歌があるんだ」


そう言いながら、ギターケースを開く。


君は何も言わずに、頷いた。


♪〜

アコースティックギターの優しい音色が、雨音に掻き消される。


♪〜♪〜

君の為の歌を、僕は雨に負けないくらい必死に歌った。


それで、晴れるなんていうドラマみたいな事は起きないけど。


それでも歌った。

君は今、どんな顔をして聴いてるの?


やけに隣が気になったけど、君は何も言わず、静かに聴いていた。


曲が終わり、ギターを置く。


君は、小さく拍手をしてくれた。

「太郎がずっと作ってたのって、この曲だったんだね」


「うん、あともう一つ・・・」


ついに、言う時がきた。

予定より、大分変更されたけど・・・もう、伝えられればそれでいい。


「どうしたの?太郎」

君は、目を丸くして、首を傾げた。


僕は、唾を飲み込んだ。



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