君と僕<短編>
・・・・・・
・・・・やっぱり駄目だ。
結婚の、「け」が出て来ない。
結局、いつものように
「なんでもない」
と言って、流してしまった。
なんで、大切なことに限って伝える事が出来ないんだろう。
唇を噛み締め、下を向いた。
ポケットの中に入った指輪ケースを強く握りしめる。
何も言わずに、これを差し出そうか・・・・そう思ったとき、君は立ち上がった。
「ちょっと、そこのコンビニで缶コーヒー買ってくるね」
「うん・・・・」
なんか、もうどうしようもなかった。
ずっと下を向いて、ただただ、君が戻ってくるのを待った。
だけど君は、いつまで経っても戻ってこない。
嫌な予感がして、すぐ立ち上がった。
それから、コンビニまで一心不乱に走った。
コンビニの前で立ち止まる。
膝に手を当て、肩で息をした。
「ハァ」
コンビニの駐車場の隅の辺で、二つの人影が動いた。
思わず駆け寄る。
「・・・・・」
それからは、スローモーションだった。
雨粒の一粒一粒が、鮮明に見える。
持っていたビニール傘が風で吹き飛び、濡れたアスファルトに転がった。
持っていたギターケースまで落としてしまい、でもそんなこと、気にしてられないくらい僕はおかしくなってた。
無意識のうちに、開いていた右手が拳に変わる。
走った勢いで、雨がジーンズにかかり、ビショビショになりながら、拳を作ったまま全力疾走した。
そして、
僕は初めて、人を殴った。