君と僕<短編>
二つの人影は、すぐに離れ、片方が地面に倒れた。
さっきまで、ただの影だったものが、今じゃはっきりと見える。
いきなりビデオの再生ボタンを押されたみたいに、僕の脳みそは現実に戻り、今起こっている事態を把握しようとした。
まず、右手に痛みを感じる。
次に、僕の目の前には、僕がよく知る二人の人物がいた。
一人は、君
そしてもう一人は・・・
「太郎・・・・ごめんなさい」
君は、泣き崩れた。
なんで・・・なんで君が泣くんだよ。
僕は、ほんの数秒前に見てしまったんだ、君と・・・カフェのマスターが抱き合っているのを。
それから、体が勝手に動いて・・・僕はマスターをぶん殴っていた。
マスターは口から血を流して、気絶しているようだ。
君は、ただ泣いてた。
大雨の中、いい年した三人の大人が、びしょ濡れでそこにいる。
自然に涙が零れた。
その時だ。
突然マスターがよろけながら立ち上がり、ふらふらと、僕の元に歩み寄ってきた。
僕は涙を拭いた。
どっちにしろ、顔は雨でビショビショだったけど。
マスターは僕の目の前まで来て、拳を思い切り突き出した。
その瞬間、目の上辺に、激痛がきた。
僕も、地面に、転がるようにして倒れる。
しかし、すぐに立ち上がっていた。
僕が意識しないうちに、僕の中の、もう一人の僕が、そうさせていた。
目の上は死ぬほど痛くて、血まで滴ってて、目も開けられない状態なのに。
僕は、マスターの頬目掛けて拳を飛ばした。
それからは、もう殴り合いの始まりだった。
しばらく、両手で顔を覆って泣いてた君だったけど、突如君は立ち上がり、僕たちの間に割って入った。
「太郎、もうやめて!全部、あたしからやった事だから」
そのとき、僕の拳が力無く開いたのが分かった。